Friday, April 13, 2012

愛の優れた蜜柑、怒りの優れた蜜柑

一時間が経ってから、僕らの座っているソファは快適になってきた。紅茶の入っていたマッグカップの空白は部屋の引力を狂わせるように、あなたは腰を上げて湯を湧かしに行く。
この雨と雷は午後一時ごろまでに続くはずだ。梅雨なんだと言っても、この辺で雨がいつでも降れるような気がする。
「雨が降ってる、ざあざあ降ってる、おじいちゃんはいびきをかいてる」とあなたは台所へ歩きながら歌う。「ベッドに行って、頭をぶつかって、朝に起きなかった」。
確かに台所の窓の外の雨を見ているあなたなんだ。その事実を信じる。背中の花の入れ墨はここから見える。「その子守歌を知らないかな?」と僕に聞いてくる。
背中の花は白くて、雪だらけの枝によく間違えられる。雨のリズムセクションはあなたの声を待っている。
紅茶のマッグカップの二杯と僕の薬を持って来てソファに腰を下ろす。僕はチョコレート一個を口に入れる。
「なんか引いてほしい曲があったが、忘れちゃった。」と僕は言う。あなたはギターを床から取り上げて、マイナーコードを引く。
あなたは眉毛を上げて、「ムーン・リバー?」
「あかん。」
「ラ・バンバー?」
「なんなや。」
「ザ・サウンド・オヴ・サイレンス?」
「それでいい。」
僕の鞄からノートを出す。ページの上に「リバー」「バンバー」と「サイレンス」を書いてみる。なぜか心が落ち着く。あなたの指と口も描いてみる。

四時半頃雨の雲は南へ20マイルぐらい過ぎた。僕らは近くの坂の野原から雲を黙って見る。蜜柑色の太陽も海の上にだんだん暮れている。海の反対側に街の駅と病院が見える。暗くなったらこの森のフクロウは鳴り始める。僕の鞄からチョコレート二個を出して、僕らは食べる。
「さっき誰に電話した?」と僕は聞く。
「駅に電話をかけた。私達のバスは8時に出発するって。その前に街で何かを食べよう。」とあなたは言う。
僕らは目を合わせて、ゆっくりキスをする。胸が痛くて、ため息をする。
 フクロウの鳴き声を耳で探すが、まだ早い。
「フクロウはこの辺におるやろう?」と僕は聞く。
「おらんと思う。餌食の隠れる場所がないから。多分北の方におる。」
「本間?隠れるところが色々あるよ。」
その指と、裸の足の下の濡れている草。たまに人間は自分より大きいものに飲まれて仕方がない。
坂の下の川はいつものように流れていて聞こえる。川の音の後ろには人工的な音も聞こえる。小石とタイヤーの音だ。エンジンが僕らの家の近くに止まった。また目を合わせて、聞きたいことは多すぎるが、意味がないと分かっている。結果のない疑問だけだ。
 「ここで待ってて。しょうぺん。。。」と僕は言って立ち去る。 坂の海側を下がって、海へ走る。太陽を追いかけるか、逃げるか、区別が出来ない。そんな動物は捕まらない。